「アイデアの宝庫、キューバンライフ」
いつのまにか12月。未曾有のパンデミックのなか、世間は例年と少し違う空気で新年を迎えようとしていますね。
今年はなかなか自由に外出できなかったり、生活必需品が売り切れてしまったりと、ときおり小さな不便を感じることがありました。
そんなとき頭に浮かぶのは、かつて音楽修行のために長期滞在したキューバでのサバイバルな生活です。
まずは、キューバでの音楽に溢れた日常がどんなものか。それがリアルに伝わる、音楽ドキュメンタリー映画「Cuba feliz」のワンシーンをご覧ください。演奏しているのは、珠玉の名曲「Lagrimas negras」です。
私がキューバに足を踏み入れたのは2005年。
まだまだ物資が不足しており、停電や断水は日常茶飯事、決して経済的に豊かな国ではありませんでした。例えば、レッスンの録音に使う乾電池一本を買うために朝から晩まで歩いて探し回ったり、冬季でも冷水シャワーしか出なかったり、ネットカフェと名の付く場所はあるものの、繋がるまで1時間かかった上に接続した瞬間に停電でシャットダウンされたり…(場所代10ドル請求されました)。挙げればキリがありません。
しかし、そんなキューバ人だからこそ、ダントツに長けている能力があります。それは「あるもので何とかする」ということ。
限られた物資を周囲とシェアして、直せるものは直して繰り返し使う。その多彩なアイデアには感心するばかりでした。
例えば、印象深かったのが電話の使い方です。
日本では一人一台携帯を持つのがすでに当たり前でしたが、キューバでは携帯どころか電話回線すら無い家庭が多かった。その場合、1つの電話番号を近所の複数のファミリーでシェアするのです。
まず電話をかけると、誰か知らないご近所さんが出ます。そして「○○さんー!!電話ー!!」と叫んでもらうか、少し後に掛け直して次のコールで取ってもらうというシステムです。
問題は、おしゃべり好きなキューバ人ですから、常に誰かが長電話をしている。すると何時間も繋がらない。結局、バスを乗り継いで家を訪ねた方が早かったりします。
あとは、日本人が持ち込んだサランラップを洗って繰り返し使っていたり、鉢植えがなければタイヤや便器にお花を植えたり。日本では使い捨てライターなんて呼ばれている100円ライターも、修理屋に直してもらえば何度も使えます。
強烈だったのが、とあるキューバ人ミュージシャンの部屋に置いてあったボンゴです。
ボンゴとは、こちらの男性が叩いている太鼓です。
通常、ボンゴの打面には、このように牛革やプラスチックを張るのですが、私が見たものにはぼんやり白い模様の入った黒い膜が張られていました。
一体何だろう?と目を凝らしてみると、なんと、レントゲンのフィルムなのでした。
白い模様は、ろっ骨でしょう。皮は高価なので、使い古しのフィルムを医者のアミーゴから回してもらっているとのこと。なかなかクリアな高音が出るので私も使ってみたいのですが、日本だと個人情報の流出だとかいって怒られそう…
最後に、もうすぐお正月なので新年のパーティでの思い出を。
キューバには、新年に向けて豚の丸焼きをこしらえる習慣があります。炭火でじっくりローストされた豚の丸焼きは、毛が残っていたりして外観はワイルドですが、肉は柔らかく皮はパリパリで、新年のハイテンションも手伝って最高に美味です。
私は知人にお誘いいただき、大晦日に豚を焼き始めるタイミングでお家にお邪魔しました。
中庭に通されて、丸々とした豚が大きな鉄網に乗せられ炭火にくべられようとした時、ふと振り返ると、
さっき通ってきた玄関の、門が、ない!!
そうです、彼らはグリル網のかわりに、玄関の鉄門を引っこ抜いて使っていたのです。
斬新かつワイルドすぎる発想に、私はキューバ人たちの底知れぬ生命力を垣間見たのでした。
いかがでしたか。キューバでの「あるもので何とかする」アイデアは厳しい経済状況からやむなく生まれたものではありますが、そこには、環境負荷を減らしながら美しく消費していくためのヒントがたくさん詰まっています。
これまでの価値観がひっくり返るような1年でしたが、私たちもキューバ人のように柔軟な発想でこの変化をサーフしていきたいものですね。では皆さま、よいお年を!
※これは2006年のキューバでの思い出であり、現在の状況とは異なります